東京藝術大学体育研究室

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2015.8.7
ことば(7)

 「経験を引き出しにしない。僕は自分に慣れるというか、自分自身に飽きちゃうのが、一番嫌で」                

 漫画家の井上雄彦氏は小•中学校時代は剣道部に所属していたそうだ。吉川英治の小説『宮本武蔵』を原作とした『バガボンド』は、1998年『モーニング』紙上にて連載が始まりいまなお続いている。幅広い層から圧倒的な支持を得、単行本は驚異的な発行部数を誇る。
 人気の秘密は、苦悩しながらも逞しく生きる武蔵の姿にあるのだろう。眼前の敵を倒し、自我という魔物と向き合い、自らの人生を切り開いていく武蔵の「剣」—組織社会に生きる現代人にとって、思い定めた道を突き進む武蔵の足取りはまぶしく映るのかもしれない。
 2008年初夏、上野の森美術館で開かれた「最後のマンガ展」には、マンガファンのみならず全国から多数の観客が詰めかけた。私も足を運んだが、画の壮大なスケールとともに、一筆一筆の切れ味鋭いタッチに息を飲んだ。バガボンドの延長線上と思われる物語風の構成となっており、観る者に「本当の強さとは何か」を問いかけるような奥深い展示であったと思う。
 「ことばは海に似ている。底に何があるかは深く潜ってみなければわからない。眺めたいだけの者には、ただ綺麗で、退屈なだけのもの。真実はここにある。どう受けとるかは、それはそれ、その者の真実」という彼の言葉が特に印象に残った。
 第16回世界剣道選手権大会の公式ポスター制作に井上雄彦氏が起用された。井上さんは制作に当たって、「相手と向き合って、面金から覗く目を見た瞬間。足が覚えている床の冷たさの感覚」そういう自らの剣道体験の記憶を描こうと思ったという。(『剣窓』2015年1月号)
 剣道で学べることは、道具に対する敬意や相手に対する敬意とした上で、「一対一で、しかも正対して向き合って実際に闘う時の体の関係は強烈。このポスターのお話をいただいてから、本当にいろんな記憶が蘇ってきていて、また剣道をやりたいなって気持ちが湧いてきています」と語る。(同2月号)
 井上さんは漫画家としての基本的な姿勢を、「経験を引き出しにしない。僕は自分に慣れるというか、自分自身に飽きちゃうのが、一番嫌で」と表現する。なんにでも新鮮に向き合える、初々しい心。できれば私たちも常に、いわば剣道を始めた頃の「初心」を持ち続けたいと思う。
 その時代の中で、それぞれの立場で、「観の目を強く、見の目を弱く」という武蔵の教えを実践的に工夫すること。さらに、学連剣道を築いてきた先輩方の志を受け継ぎ、「生涯剣道」の中味をさらに豊かなものにして後輩につないでいくことが、私たちの役目であろう。
 何よりも、「また剣道をやりたい!」と思う人たちー再開組に対して、門戸を大きく広げ、温かく迎える度量をもつ学連剣道であってほしい。個人であれ、集団であれ、その「本当の強さ」こそが、社会の信頼と支持を得る生命線であることを忘れてはいけない。

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 「経験を引き出しにしない。僕は自分に慣れるというか、自分自身に飽きちゃうのが、一番嫌で」                

 漫画家の井上雄彦氏は小•中学校時代は剣道部に所属していたそうだ。吉川英治の小説『宮本武蔵』を原作とした『バガボンド』は、1998年『モーニング』紙上にて連載が始まりいまなお続いている。幅広い層から圧倒的な支持を得、単行本は驚異的な発行部数を誇る。
 人気の秘密は、苦悩しながらも逞しく生きる武蔵の姿にあるのだろう。眼前の敵を倒し、自我という魔物と向き合い、自らの人生を切り開いていく武蔵の「剣」—組織社会に生きる現代人にとって、思い定めた道を突き進む武蔵の足取りはまぶしく映るのかもしれない。
 2008年初夏、上野の森美術館で開かれた「最後のマンガ展」には、マンガファンのみならず全国から多数の観客が詰めかけた。私も足を運んだが、画の壮大なスケールとともに、一筆一筆の切れ味鋭いタッチに息を飲んだ。バガボンドの延長線上と思われる物語風の構成となっており、観る者に「本当の強さとは何か」を問いかけるような奥深い展示であったと思う。
 「ことばは海に似ている。底に何があるかは深く潜ってみなければわからない。眺めたいだけの者には、ただ綺麗で、退屈なだけのもの。真実はここにある。どう受けとるかは、それはそれ、その者の真実」という彼の言葉が特に印象に残った。
 第16回世界剣道選手権大会の公式ポスター制作に井上雄彦氏が起用された。井上さんは制作に当たって、「相手と向き合って、面金から覗く目を見た瞬間。足が覚えている床の冷たさの感覚」そういう自らの剣道体験の記憶を描こうと思ったという。(『剣窓』2015年1月号)
 剣道で学べることは、道具に対する敬意や相手に対する敬意とした上で、「一対一で、しかも正対して向き合って実際に闘う時の体の関係は強烈。このポスターのお話をいただいてから、本当にいろんな記憶が蘇ってきていて、また剣道をやりたいなって気持ちが湧いてきています」と語る。(同2月号)
 井上さんは漫画家としての基本的な姿勢を、「経験を引き出しにしない。僕は自分に慣れるというか、自分自身に飽きちゃうのが、一番嫌で」と表現する。なんにでも新鮮に向き合える、初々しい心。できれば私たちも常に、いわば剣道を始めた頃の「初心」を持ち続けたいと思う。
 その時代の中で、それぞれの立場で、「観の目を強く、見の目を弱く」という武蔵の教えを実践的に工夫すること。さらに、学連剣道を築いてきた先輩方の志を受け継ぎ、「生涯剣道」の中味をさらに豊かなものにして後輩につないでいくことが、私たちの役目であろう。
 何よりも、「また剣道をやりたい!」と思う人たちー再開組に対して、門戸を大きく広げ、温かく迎える度量をもつ学連剣道であってほしい。個人であれ、集団であれ、その「本当の強さ」こそが、社会の信頼と支持を得る生命線であることを忘れてはいけない。